『あのさぁ、楽屋ネタで悪いんだけどさぁ、コレって不二くんとちゃんがメインだよね?』
『おいおい待てよ兄弟。人の死と悲劇は遠回しにした方が面白いだろ?』
『それにちゃん悪役だし、上手くいくわけないでしょ?』
『え!?悪役だったの!?』
「部長、動かないでください」
「……」
チャリチャリ…
「苦しめたくないんです」
チャリ…
「部長…?死んじゃいましたか?」
「…ああ」
「ああなんだ、生きてるじゃないですか」
カチリ
「私部長に憧れて青学にきたんですよ」
パスン
「さよなら…大好きです、手塚部長」
熱が出てきた…。
咄嗟のことだったし、教室だったし、碌な手当てが出来なかったせいか、傷口が熱を持ってきた。
ぼーっとする…まずい…。
私は鞄から携帯食料を出し、一口食べた。
続いて水と解熱剤を出す。
痛み止めも飲もうかと迷ったが、やめることにした。
あんまり服用すると、あとが厳しくなる。
ゴクン、と飲んで水をしまう。
仕舞うときに支給武器が目に入った。
浮かんできたのは苦笑い。
全くなんの因果だろう。
銃を持ってきて良かった、と思う反面テニスボールとは洒落たことを、と怒りが沸く自分がいる。
ザッザッザッ
早足で歩く。
すでにゲーム開始から二時間は経過した。
そろそろ、一人きりの子たちが壊れ始める時間だ。
もっともテニスはメンタルなゲームだど乾くんが言っていたから、まだまともな神経で居られるかもしれない。
懐かしいテニスの日々を思い出して、泣きそうになる。
聞き忘れたなぁ…なんでまたバトロワやらなきゃいけないかって…。
前回優勝者の特権で色々条件を聞いてもらえたのが、良かったこと。
最も政府が本当に守っているか、と聞かれれば怪しいだろう。
だが、少なくとも、ゲームに参加するよりかはマシなはずだ。
そうであることを祈るより他にない。
一つ、私以外の女性の参加を却下。
理由、私が標的になりやすいため。
一つ、親族以下への言われ無き暴力を無しに。
理由、政府への反感は買うが、逆に結束して殺り辛い。
一つ、武器はテニスボールとラケットで。
理由、楽しいし、絶対あいつらならサーブで人殺せる。
一つ、首輪からの盗聴機の撤去。
理由、恥ずかしいから。
…などなど。
うち、女性の不参加、言われ無き暴力、盗聴機の撤去が認められた。
目で確認して守られているのが女性の不参加だけなので、本当に信用していないのだが、やっぱり祈るより他にない。
竜崎先生にはバスに乗る前に言った。
抵抗しないでください、絶対全員守りますから、そう言った。
今回は死体のデモンストレーションがなかったから、無事かどうかはわからない。
そういえば、さっきから誰かついてきてるんだけど…誰かな?
殺す気がないみたいで放って置いたのだけど…。
「えーっと…どこまでついてくるの??」
私は声をかけることにした。
掛けられた方はまさかバレてたとは思わなかったのだろう。
驚いた気配が伝わってきた。
「…やあ、」
林から顔を出したのは不二くんだった。
私は首を傾げた。
絶対不二くんは裕太くんと行動すると思ってたのに。
「不二くん?裕太くんはどうしたの?」
「…ちょっと、はぐれちゃってね…」
「そっか大変だね」
私の気のない言葉に、不二くんは少しショックを受けたようだ。
その顔を見て私もドキっとした。
今私は結構最低な事を言った。
大変だというのは、もう既に明確。気のないそぶりも、本当は演技。
・・・だって、当たり前じゃないか?
あの絶望から救い出してくれた皆を、再び殺せなんて、そんな・・・。
私はガサガサと鞄からスケッチブックを取り出した。
ひどく弁解したかった。教室のときもそう、嘘で〜す、と叫びたかった。
我慢してたのに…我慢できなくなった…。
"ごめん"
字を見て不二くんが驚く。
"首輪に盗聴機"
「誰かに狙われたんだ?」
ぺら
"私は誰も殺してない"
「腕、怪我してるね」
パタン
私がスケッチブックを仕舞うと、不二くんはハッとして、いつも通りの笑みを浮かべた。
「ああ…なんともないよ」
「なんともなくないよ。かすり傷ってのは結構怖いんだから〜」
「…大丈夫だから」
「手当てしてあげる。でもここじゃ目立つからちょっと先に進もう」
私が先導すると、不二くんが手をぎゅっと握ってきた。
「不二くん?歩きにくくなるよ?」
「いいんだ。したいことしておきたいから」
「へ?」
「いこう、。どっち?」
「あ、こっち」
思えば教室でビデオを見せられた時に、不二くんが手を握ってくれていなかったら、私は手にした銃でみんなを殺していただろう。
疑心暗鬼じゃない、フラッシュバックだ。
仲間に殺されかける瞬間の。
仲間が仲間を殺す瞬間の。
頭の配線がプチンと切れた瞬間の。
ありがとう…、と呟きかけて、私は慌てて台詞を飲んだ。
「不二くんの手ー、冷たいね♪」
狂った馬鹿を演じ続けるのが苦でなくなったら、どうしよう?
その時は…。
「?」 「んー?」
今のところ上手くいってる。
大丈夫大丈夫。
二十九番 手塚 国光 死亡
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