『好きよ好きよ好きよ…うっふん♪』
『好いた惚れたの言ったところで…ねぇ』
『生きてなければそんな感情なんの意味も持たないのに』
「ゆ、侑士…侑士!」
「岳人か?」
「侑士!」
「しっ!あんま大きい声ださんとき」
「お、おう」
忍足は向日の手を引き、神社の中に入った。
罰当たりな気がして一瞬怯んだが、忍足に従った方がいいだろうと思い中に入った。
従うのはしゃくだが、すでにここまで来た以上そうするより他はない気がした。
「遅いんでやられてもうたんかと気ぃ揉んだわ」
「やられるわけ…ないだろ」
声が少し裏がえった。
向日自身はまだ襲われていない。
しかし、ここまで来る途中に聞こえた銃声が、みんながゲームに乗るはずがない、と言う思いをぐらつかせていた。
「…なぁ、侑士…なんでこんなことになったんだ…?」
「さあ…お偉いさん方の考えとることはようわからん…」
「お、俺、殺したくない…」
「俺もや、岳人。安心せえ、殆どの奴がそう思っとる」
「…なんで、なんでそんなことが言えるんだ!」
声を荒げる向日に、忍足はピクリと反応した。
「侑士は聞いてなかったのか!銃声したぞ!あれはなんなんだ!正当防衛?じゃあ狙った奴がいるじゃないか!」
「岳人、落ち着き」
「落ち着く?どうやったら落ち着いてられんだよ!侑士は怖くないのか!なんでそんなに落ち着いてられんだよ!」
「怖くないはず、ないやろ。俺は岳人より先に学校を出てここにおったんや」
なにも聞いてないはずないやろ?…と暗い表情で忍足が言った。
そんな表情の忍足をみるのは初めてで、言葉が詰まった。
「侑士…」
「でもな、なんも信じられへんようになったら終わりや。
岳人、ええか、少なくとも跡部は乗ってへん。
つうことは樺地もや。
ジローはどっかで寝てるかもしれんな。あいつ教室でも寝とったやろ?」
「あ、ああ」
「長太郎はあんな性格やしな。宍戸も長太郎が一緒なら大丈夫やろ」
一緒じゃなかった場合、宍戸が長太郎を守るために壊れるかも知れん、とは口に出さない。
それは、信じろ、と言った口で言えることではなかった。
しかし、それは他人事として思ってるわけでなく、忍足自身も向日が既に死んでしまっていたら壊れていたに違いない、と理解していたからこその思いだった。
恋とかそういう感情じゃない。パートナーとして、どれだけ長く一緒にいたか、だ。
「俺はどっかのデータ野郎とは違うが、氷帝のやつらのことくらいわかってるつもりや。岳人かてそうやろ?」
「…おう」
向日は取り乱した自分が恥ずかしく感じ、そっぽを向いて返事をした。
「さて…どうしょうかな…そうや、岳人、お前の武器なんやったん?」
「あ。まだみてねぇ」
ディパックを開け中を探る向日は、目的の物を見つけて凍り付いた。
「?岳人?」
「あ、ああ…これだ…」
取り出したのは、銃器だった。
「"Uzi9mmSMG"」
添付された紙を、向日が乾いた声で呼んだ。
「ゴツいな…」
「……」
侑士が正直な感想を漏らすが、向日は何も言わなかった。
「俺はこれや」
出してきたのは、ライフル銃。
AK-47や、と冷たく言った。
「30発入っとるらしい」
「……」
「…どした、岳人?」
「でかいな…」
「…そやな…」
武器を見つめたまま、お互い沈黙した。
これはどうやっても、人に向けた時点で相手を殺してしまうものだ。
当たり武器が入っていてラッキー!なんて気分じゃなかった。
もう少し小型で、ドラマでもありふれた形の物だったら違ったかもしれない。
「岳人のはしまっとき」
「え?」
感情を読まれたような台詞に向日はドキっとした。
「俺のはいちいち装填せなあかんようや。威嚇くらいの役にはたつやろ。
…岳人のはあかん。一度引き金引くだけで、何十発も発射されるようや」
「……」
「それは俺と離れたら、出すんや」
「え!?」
「…大丈夫やと思うけどな…」
忍足はそう言うと、ガチャンと弾を装填させた。
「…なあ、侑士」
「なんや」
「なんで地図見る前に、神社があるってわかったんだ?」
向日の質問に、忍足は苦笑いをした。
「今の夜くらいは、ここで寝ても大丈夫やって話や」
「あ?」
「ほな、俺が起きとるから岳人先に寝ぇ。後で交代な」
「おい!」
「…明日は寝れるかわからんのや。黙ってやすんどき」
「……」
どこか睨みながら淡々と言う忍足に何も言えず、向日はイライラと横になった。
教室に寝かされている中、一番最初に起きたのは忍足だった。
「…なんや…ここは…」
起き上げた体のどこからか、チャリと言う音が聞こえ、体を弄ると首輪の存在に行き当たった。
なんや?と思った時黒板の字が目に入った。
"BR"
首輪に触れている指が震え、リングがチャリチャリとなった。
「侑士くん、起きたんだ」
突然掛かった声は、近くからしていた。
声に振り向くと、いきなり紙を突きつけられた。
"盗聴されている。
私がしていることは口に出すな。
ゲームが始まったら神社に行け。
失ったら壊れると思う人と一緒に神社に行け。
今日の夜はきっと人は来ない"
紙を受け取ると、そこにはが泣きそうな顔をしていた。
そして跡部の首輪に何かしていた。
「みんな、よく寝てるね」
「…そやな」
「私女子だから、合宿でもみんなの寝顔みたことなかったから、なんだか新鮮」
「…ほうか」
「忍足くんも寝れば?」
「…黒板の字ぃ見て、寝れる奴がおるか」
「あはは、それもそうか」
話してる間に、は何かをしおえ、忍足から紙を奪うと、第九を口ずさみながら不二の近くのロッカーの上に座った。
その姿は何かを祈ってる様に見えた。
「…なんで…そんなに…信じてくれるの…?」
…クスクス…クスクス…
「あ、と…8……クスクス…」
木更津敦は、もう壊れた。
ここには、兄はいない。
彼が壊れる原因となった、兄はいないのだから。
彼を元に戻せる人は、誰もいない。
四十三番 柳沢 慎也 死亡
[残り 40名]
九章へ
七章へ
戻る
|