だい なな わ。










『なんだかんだと聞かれたら』

『答えてあげるが世の情けー☆』

『でも、情けを持ってたら生き残れないぜ兄弟?』


















 木更津敦は、赤澤吉朗から銃を奪った。

 胸に刺した棒を抜こうとするが、死後硬直が既に始まっていて抜くことができなかった。

 顔に付いた血を拭いながら、赤澤の体をゆっくり横にする。



「クスクス…部長は、誰のために銃を構えてたんですか…?」



 クスクス…と笑いながら、少し涙を流した。



 このゲームに、合宿に来るはずだった六角中は参加していない。



 その理由は、敦にあった。








 敦はバスの中で、一度起こされた。




「君は六角中に兄弟がいるね?」



 事実だったので頷いた。



「兄弟の命は、やっぱり大切なのかな?」



 訝しげに男を見る敦に、男はにこりとほほえんだ。



「君はこれからBR法に基づいたプログラムに従ってもらうことになる」

「!!」

「君が10人仲間を殺したら、六角中の参加は取りやめよう」

「……」

「六角中は途中参加と言うことで、君たち聖ルドルフ同様、睡眠ガスで眠らせたまま連行してある」

「……」



 男の言葉に、敦はクスリと笑い、頷いた。

 男は満足そうに頷き返した。











 最初に赤澤を狙ったのは、まず目に付いたと言うのもあるし、なにより部長なら許してくれるんじゃないか、と言う思いからであった。

 敦はカバンからハンカチを取り出し、赤澤の顔に被せた。

 それが彼に向けた唯一の手向けで、謝罪だった。



「クスクス…あと、9人…クスクス…」



 赤澤のカバンも背負いながら呟いた言葉は、思った以上に重かった。





















 この後、近くを通った不二兄弟を襲うが、不二の動きに翻弄され二人とも逃がしてしまった。

 それは、狙った相手が兄弟で、しかも不二が弟を逃がすためにこちらへ向かってきたからかもしれなかった。

































 河村隆は追われていた。

 頭のどこかで、みんな狂ってしまったのだと警鐘が鳴る。

 それでも、殺せ!と浮かばないのは、偏に彼の支給された武器が鍋の蓋だったからかもしれない。



 武器が鍋の蓋だったことに河村は安堵していた。

 ショックも恐怖もなかった。

 それは彼の優しさが本物だったからだ。



 強い武器は人を歪ます。

 ラケットを持つ自分が常と違うように、それは誰にでも起きる変化であると知っていたから。

 純粋に鍋の蓋で良かった、と思った。



ズキュン!



「!!」



 掠める音に河村は転んだ。

 わき腹にひきつった様な痛みが走った。



 撃たれた。



 自覚すると同時に恐怖が立ち上ってきて、全身が震えた。


 ヤバい、立たないと…立って逃げないと…テニス、できるの今年で最後なのに…っ


 帰れる方法は一つしかないのに、混乱した頭には、生きていればなんとかなる、と言う楽観的要素が浮かぶ。

 まだ、と言うより、こういう事態だからこそ、楽観的要素に逃げたくなるのだ。







ガサガサッ


パスン





 突然、草木を分けて現れた人物がどこかに向かって発砲した。

 それは乾いた音で、河村に向けたものではなかった。



「…タカさん?」



 遠くからの銃撃は止んだ。

 近くに来た人物が河村を呼ぶ。

 その声に顔を上げて、驚いた顔をした。



…」



 きょとんと河村を見下ろしているのはだった。



「タカさんけがしたんですか?」



 はなぜか自分と手塚には敬語を使う。

 多分、タカさん、と言う愛称に敬語が似合うと判断したからだろう。

 普通と同じように話すに一瞬現実を忘れそうになった。

 思い出させたのは、わき腹の痛み。



「タカさん、喋らない方がいいですよ」



 はそう言うと、河村の口にタオルを突っ込んだ。



「!!」

「動かないでください。ああ、ハラワタ出ちゃったじゃないですか」



 河村からはそれが見えない。

 は倒れている河村の上にのり、起きあがることも周りをみることも出来なくさせる。



「!!」

「タカさん、私タカさん大好きですよ」



 わき腹から脳天を浸食するような激痛が走った。

 断続的にチクチクと。


 が何かしている様だが、見えない。



「タカさんのバーニング、もっと聞きたかったですよ」



 今度は首周りをカチャカチャとやっている。



「またテニスしたいなぁ…」






カチリ





 何か、不吉な音がした。





「!!…っ!!」

「バイバイ、タカさん」







パスン







「大好きです」

























十七番 河村隆 死亡



[残り 41名]




 八章へ

 六章へ




 戻る