だい ご わ。











『私のお守り、お花マーガレット〜♪』

『交通安全、安産祈願、受験合格、必勝祈願』

『ま、いずれにしろ、弾丸から守ってくれるお守りなんてないわけで』











 まるでカウントダウンのように、番号と名前が呼ばれていく。

 名前を呼ばれ、荷物を受け取り、教室を去って行く姿は十人十色。

 アイコンタクトをとる者もいれば、震えながら去って行く者もいる。

 威風堂々と受け取って行く者もいれば、酒田にガンつけて去って行く者もいる。

 そんな様子からわかることは唯一、まだみんなは『なんとかなる』と言う希望を持っているからだ。

 教室にいる間はまだいい。

 周りにいる仲間は頼もしく、軽口を叩きあえる間は、差し迫る恐怖を忘れることができる。


 恐ろしいのはこれから。

 制限のない見知らぬ空間で、暗闇の中、一人きりで朝を迎えなければならない。


 疑心暗鬼になるのは時間の問題。

 それは誰のせいでもない。

 人間と言うのはそう言う生き物で、ましてや多感な中学生なら尚更だ。


 これは、政府のゲームなのだから。

 そういうのを楽しんでいるのだから。





























 外に出ると、辺りは真っ暗だった。

 タカさんいるかな…?

 大石は…もう遠くに行ったかにゃ〜…?

 番号は名前の50音順にされていたので、タカさんと大石は俺の少し前に出たばかりだった。

 もちろん海童も近かったけど、海童の性格からして、なんとなくもうここにはいない気がした。



 チュィン!



 耳を掠めたスピード音に、ぎょっと身を引いた。



 何だ…今の…まさか…!



 血の気がサーッと引いていくのがわかった。

 今まで自分が居た場所に、赤い蛍が止まっている。


 見たことある…あれ…確か不二と見に行ったアクション映画…。


 ホーローポイント。銃の照準。



 …う、そだろ…?



 赤い蛍は校舎の壁をフヨフヨすると、俺の方に向かって飛んできた。



「…!!!」



 俺は走って逃げ出した。

 後ろの方で、チュィン!と音がした。

 誰かが俺を狙ってる…っ!


























 茂みに居て菊丸を撃ったのは赤澤だった。

 だが、赤澤は菊丸を殺したかったわけじゃない。

 赤澤が殺したかったのは、だった。



 前回優勝者。



 赤澤とは一度練習試合で会ったくらいの仲だった。



 その時は、微塵も殺人者だと言うことを感じさせなかった。

 あの、明るい、笑顔。

 菊丸と並んで笑っている姿は、青学の二大ムードメーカーと言っても過言じゃない、と赤澤はあのとき思ったのだ。


 だが、教室でみた、壊れた笑みはどうだ。

 皆に、死ぬだけ、と言った楽しげな表情は、明らかにおかしかった。



 一発目は威嚇。暗い為に明るい場所に引きずり出さないと顔が判別できないからだ。

 青学のユニフォームは白を基調としているため、暗がりの中でもわかるのだが、その他は、背格好と髪型くらいしかわからない。



「はあはあはあはあ…」



 菊丸とわかった瞬間、息が止まった。

 撃ったのは菊丸で二人目。


 初めは越前。

 越前は試合に望むような顔で出てきて一目散に走り出した。

 そこに菊丸のような躊躇はなく、赤澤は大幅にずれて撃った。

 引き金を引いた瞬間に、越前だと理解した時、無事に走り去ってく彼を見て全身の力が抜けそうだった。



「はあはあはあはあ…」



 アイツを殺さないと、みんなが殺される。

 普段の状況では考えられないほど、赤澤は焦っていた。

 二人目も間違えた時点ですでに余裕がなくなり、前方だけを視野に収めていた。







 それが、命取りだった。








ドス!









 鈍い衝撃が全身に走った。視界にバッと赤いものが散った。

 顔に付いたそれが熱く、痛みはなかった。

 異物感がある、だけだった。

 ゆっくり俯く。左胸から太い先の尖った木の枝が生えていた。

 真っ白な頭に、ドクンドクンと心音が木霊し、そのリズムに合わせて血が吹き出していた。



「ぁ…?」



 体から力が抜けた。息ができないことが苦痛ではなかった。




 構えていた銃が支えになって、赤澤は疲れて一休みしているような体勢になった。







「部長…俺の武器…クッションだったんスよ…」






 クスクスと密やかな笑い声と共に、息をしなくなった赤澤に誰かがそう言った。























一番 赤澤吉朗 死亡



[残り 43名]




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