君の笑顔
陸遜と行動することになりました。
想像よりやや若い感じの陸遜少年に、年齢を聞いてみました。
「年ですか?数えで16になります」
・・・・・・若っ。
数えで16ってことは、実質15歳ってこと?
えええーっ。それなのに、もうお役所仕事とかしちゃってるわけ?すごくね?すごくね?
「陸遜って・・・凄いんだねぇ・・・」
ほへー、と私が感心して言うと、言われた当人は複雑そうな笑みを返した。
・・・ん?私、なんか変なこと言ったのかな?
「さん」
むぅ、と考えこむ私の名を陸遜が呼んだ。
「着きましたよ」
そう言って指し示した先は、呉服屋さん。
色んな衣装が餐雑に置かれている。ちょっとこじんまりとしたお店。
うわぁ、すごく中国っぽい・・・って言うのも失礼か??
わーい♪と喜んで店に入る私の後ろから、陸遜が呆れたような苦笑いを含んだため息を吐いた。
む。なんだよ。陸遜が私の服装は露出が高くて、とても何処かへ連れて行けるような格好じゃないって言ったんじゃんか。
私が振り返ってちょっと睨むと、目が合った陸遜が、にこっと笑いかけてきた。
う。
ちくしょー・・・かわいー・・・・。
少し目を合わせたことを後悔して、私は鼻歌なんぞを歌いながら、店の中に入った。
「いらっしゃいませ」
店主と思しき、気の良さそうなお兄さんが、営業スマイルよろしく私に声をかけた。
あ、どもー。
NOと言えない日本人の私は、彼に軽く頭を下げて、釣り下がっている品物を物色し始めた。
わー!ちゅうごくだー!ちゅうごくだー!!そんな感じの服がずらりと並んでいる。
「さんは、何色が好きなんです」
私の横に並んだ陸遜が、服のほうを見ながら問いかけてきた。
「赤」
「へぇ」
スパッと躊躇なく言った私に、頭の上で陸遜が微笑した。
お気に召したのか、それとも唯の愛想笑いか知らないけど。さっきの不意打ちスマイルの余韻が残っているため、顔は見ないことにする。
しかし、おかしいなー。
憧れのあの人とウキウキドキドキショッピング!だと言うのに、私の心にはトキメキのトの字も湧いてこない。
ぶっちゃけ、非常に気まずい。
気まずい原因は、まぁアレコレ浮かびますが、いくら初対面(?)とは言え、人の顔色をこんなにも伺って行動するなんて私らしくない。
なんていうか、キモイよ私。
「陸遜のその服は何て言う・・・んスか?」
「んスか?」は蛇足か?
私の言い方がやはり面白かったらしく、陸遜は小さく吹き出した。
「ふふ・・・失礼。そうですね・・・でも、男物を着るのは悪くない案かもしれませんね」
どこも、物騒ですから。と、苦笑いをする。
そうしながら、これなんてどうですか、と一着引っ張り出してきた。
全体的に赤い服で、チャイナ服っぽいのと着物と袴な感じのものだった。
陸遜の着ている服とはちょっと違うのだが・・・、まあいいか。
陸遜の服は、きっとこういうところじゃ買えないんだろうし。
「これって、どうやってきるんですか?」
「どうやって・・・ええと、こちらを先に中に着て、ホウを・・・えと、これを上に被るように着てください」
うーむ、このチャイナ服もどきはホウと言うのか。どんな字を書くんだろ。
まさか、着させてもらうわけにもいかず、私は「おっけー」と答えて更衣室を捜す。
陸遜が「おっけー」の意味が分からず、首を傾げているのを放って置いて、店員さんに聞いて更衣室を借りた。
「気をつけてくださいね」と陸遜の忠告が小さく耳に入った。
気をつけて、とは、なんじゃいな。服のサイズのことか。意外とデリカシーのない人だな。
店員に言われるままに、上から垂れている布を上げると、扉があり、扉を開けるとそこは個室だった。
まあ、扉と言えど、上も下も十分に隙間が空いているもので、多分服を引っかけて置くためのものなんじゃなかろうか。
しきりはこのカーテンと言うわけで、なんら現代の更衣室と違和感がない。強いて言えば、下が床ではなく土ってとこが不衛生かな。
男物の服なので、自分のサイズにしても若干でかい。スカートの下にズボンを穿いてから、脱ぐ。
ベルト代わりの紐は、若干太いウエストでもぴったり合わせてくれる。
…まあ、私の結び方じゃあ、すぐゆるんじゃいそうだけど。
上は、着物の上半分だけ切ったような物と、そのから着るワンピース(?)のようなものだった。
想像力をフル回転させて、なんとか着終わると、トントンと壁がノックされた。
……あれ?
ノックされた方をよく観ると、壁だと思っていたそれは、扉だった。
あれ?
後ろを振り返ってみると、制服が無造作にかけてある扉がある。
あれ?どっちから入ってきたんだっけ?
分厚いカーテンのせいで、どちらも同じように薄暗い。
うーん。
とりあえず、ノックされた方に近寄って様子を伺ってみることにする。
「…陸遜…?」
カーテンをめくって顔を出した瞬間、いきなり手をひっぱられ、口を塞がれた。
なに!?
驚いて硬直している私を、更衣室から引きずり出し、そのまま布の回廊を引きずっていかれた。
そしてそのまま、別の部屋に放り出される。
「痛っ!」
腰を強かに打ってしまった。おにょれ。許さん。
バクバク煩い心臓を撫でて宥め、血の気が引いてまともな思考を許さない脳を叱咤する。
落ち着けー、落ち着くんだー。
ぐっと目に力を入れ、睨み上げる。
相手は男が三人。
現代じゃあなかなか見れない引き締まった筋肉の持ち主たちだ。
顔はよく見えない。
髪は多分長い。
かっこよかったらどうしよう。
「なんだ、女じゃねーのかよ」
「店のもんの話じゃ、いい年した女だったはずなんだが」
「この成りじゃ、例え女だってまだガキだな」
前言撤回。どうもしない。
…この際、言わせたいように言わせておくさ。あはは。
全く、どんな男装しても男になんか間違えられたことないよ。ああじゃあこれ初体験?こまっちゃうなーもー。
「ま、この際どっちでもいいだろ」
「丈夫そうだしな」
そう言って伸ばしてきた手を、私は乱暴に払った。
「ちっ!うるさい奴だな」
「触ったら大声出すから!これでも肺活量には自信があるんだからね!」
「キンキンと女みたいに騒ぎやがって!ぶっ殺されてぇのか!」
男の一喝に震え上がりそうになった。
大丈夫、話からして私は売り物だから、殺されはしないはず。
そう分析して、目に力を入れる。
後ろに回した左手をぎゅっと握る。
目と手に力を込めるだけで、ずいぶん背筋が延びた気がした。
「そこ退きなさいよ。連れが店で待ってるんだから」
「連れ?こんな店に来るくらいだから、相当な田舎もんか、わけありな奴なんだろ。そんな奴が喚いたところで痛くも痒くもない」
そう言うと男たちは笑いだした。勘に障るその笑い方に、恐怖心より怒りが勝ってきた。
手を床に突いて、立ち上がる。膝は言うことを聞いてくれ、大地をしっかり踏みしめられた。
男たちは笑うのを止めた。
立ち上がっても、彼らと私の身長さはひどく、傍目にも私が勝てる見込みはなさそうだ。
「なんだ、お前」
「しょうがねぇな。あんまり傷つけたくはなかったんだけどよ」
「おい、殺すなよ」
「だいじょーぶだって。少し黙らせるだけさ」
勝手な事を言っている奴らを見上げながら、ぐっと腹に力を入れる。
"能力的に、君にも一応三国無双並の力は与えてあるから、死ぬことはないと思うよ。"
言ったよな、あの小僧。
体はなんにも変わった様子はない。さっきだって、外に誰がいるのかわからなかった。
でも。
こいつら、いっぱつ殴りたい。
本当は此処でギャーギャー叫んで、頭働かせてコイツらを足止めして、遅いのを心配した陸遜が来てくれるのを待てばいいのに。
頭悪いと自分でも思うけど。
ダメだ、手が出る。
男の一人が、落ちていた棒を拾い上げるのを目で追った。
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