「ごめんなさい・・・・」



 事情を話し終わった彼女は、そういうと、ぽろぽろと涙を零し始めた。

 何故彼女が謝るのだろう。

 彼女に謝られたところで、イライラとした混乱の渦は、どうにも収まりそうにない。

 泣いてしまえばいいのか?彼女のように。



「泣けば解決するのですか?」



 思わず口をついて出てしまった言葉はそれは冷淡な言葉で。

 私の言葉に、彼女は口の端をきゅっと噛みしめ、首を振った。

 その表情を見て、思わずはっとした。

 彼女は、泣けば全て解決すると無意識に思っている子供ではない。 

 自分自身への救済が欲しくて、泣いているのではないのだ。



「ごめんなさ・・っ」



 時々、俯いて泣きながら漏れる謝罪の言葉が聞こえる。

 何故、彼女が謝るのだ。

 何故、私は目の前の彼女の境遇を聞いて、自分のことばかりに混乱しているのだ。

 混乱しているのは、相手も同じ。

 どうして自分ばかり可哀想と嘆いているのだ、私は。

 思わず自らにため息を吐く。情けない。

 

「よぉ、兄ちゃん!なーに、彼女泣かせてんだい?」

「ひでぇ、彼氏だな。お嬢ちゃん、こっちこいよ。優しくしてやんぜ?」




 周囲の酔っぱらいから、からかいを含んだヤジが飛んだ。

 彼らの声に、私はようやく我に返った。

 周囲に視線を巡らすと、彼女をどれくらいの時間泣かせっぱなしにしていたかがよくわかる。

 こういう店に連れてきた私自身も配慮が足らない。

 このままココに居たら、一騒動起こしかねない、か。

 私は席を立ち、彼女の手を取った。

 その行動に、今まで泣いていた彼女がきょとんと顔を上げた。

 泣きはらした顔。

 すごく自分が情けなくなった。



「行きますよ」



 外に出て、すぐの通りの隅で、私はとりあえず立ち止まった。

 とりあえず、あの場にいたらまずかったわけで、今すぐにでも彼女に言わなければならないことがある。

 僕は彼女を振り返った。

 ぐしぐしと、僕に掴まれていない方の手で涙を拭う彼女。

 私はそっと、彼女の目尻を指で擦った。

 彼女がすごく驚いた顔で私を見た。



「すみませんでした」



 自分は今、どんな情けない顔をしているのだろうか。



「私としたことが・・・情けない。状況に混乱して、八つ当たりしたしまいました・・・」

「ごめんなさい・・・」



 私の言葉に、彼女が頭を下げる。



「なんで貴方が謝るんですか」



 ちょん、と下げた頭が可愛らしくて。

 うまく言えない自分が情けなくて。

 彼女の頭を撫でた。

 ゆっくりと、壊れ物を扱うように、そっと。



「貴方は私のことばかり気にしているけれど、自分のことを忘れてませんか?」

「・・・ぇ?」



 私の為に泣いてくれた彼女。



「貴方の状況も、僕の状況とさして変わりない。・・・いえ、女性の貴方の方が辛かったでしょう」



 ちょっと考えれば解ること。

 私の言葉に、再び泣き出した彼女を見て、思わず抱きしめたい衝動に駆られた。

 「泣けば解決するのか?」それは、私への言葉。

 彼女は、自分自身の為に泣いたって全然構わないはずだ。

 すこし豪快な彼女の泣き方に、私は少し失笑して、そのままゆっくりと落ち着く用に撫で続けた。

 まだ、この子は幼いのだ。

 それなのに、自分より相手を重んじる。意識してではなく、完全な無意識で。

 ややあって、落ち着いてきた彼女に、



「名前を教えてくれますか?」



 そう、問うてみた。



「・・・です・・・



 か細い声で答える彼女。



さん。これからよろしくおねがいしますね」



 まだ、何もかも始まったばかり。


















「もう、泣かせたりしませんから。


 どんなことが起きても。」




 彼女の方を見ると、よく聞こえなかったようで、首を傾げながら微笑んできた。

 それに、僕は微笑み返した。

 泣きはらした顔が、とても愛しく感じた。























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