赤子と婚約者



























「かわいい・・・ですね・・・」



 私は思わず頬を染めて、呟いてしまった。

 小さい手、小さい足、小さい顔、何もかもが小さい。

 私の言葉に、大喬様はふわりと微笑まれた。

 その手に抱かれているのは、殿との愛の結晶。小さい赤ん坊。

 マ ジ か わ い い。



「郁さまー、こっち向いてーv」

「ぁー」

「ぐはっ!かわいい!!!」



 私の言葉に、ふにゃと笑う赤子に私の興奮は臨界点を突破しそうになる。



「いいなー、赤ちゃん欲しいなーv」

「ふふ。雪華さんにも、良い人がいるでしょうに」

「あはは、こんな傷だらけの女、貰ってくれる人いるのか不安ですねー」



 私が道化ると、心優しい大喬様は、悲しそうに顔を曇らせた。



「女性なのですから、無理に戦場にでなくてもいいでしょう」

「お気遣いありがとうございます」



 私は、大喬様に心から微笑み礼を述べた。

 そして、郁様を私に、そっと渡す。



「では、雪華さん。よろしくお願いしますね」

「はい!任せてください!」



 郁様のお世話係は、実は私だ。

 大怪我を負った私は、暫く従軍できず、暇でしょうがなかった頃、大喬様とよくお話をして、その結果何故か懐かれてしまったのだ

 郁様は、人見知りが激しく、実の父親でも、抱かれるとむずがったりする始末。

 そこで、大喬様の育児負担を減らすため、護衛も含めて、私がお世話することになったのだ。



「郁様、今日は何をして遊びましょうか♪」



 私の言葉に、郁様はきゃっきゃと笑った。




















「あ、伯言だ」

「あー?」



 郁ちゃんを抱いての散歩中、反対側から、陸遜が歩いてくるのが見えた。

 私の言葉に、郁ちゃんが反応する。

 私は、赤子に笑いかけながら、陸遜に手を振った。



「陸東曹令史」





 私の呼びかけに、彼は微笑んでコチラに来た。

 側に来た陸遜は、私が抱いた赤子を見て、拱手した。



「お姫様、ご機嫌麗しゅうございます」

「相変わらず固いなぁ、伯言は」

「・・・

「う。はい、すんません、東曹令史」



 彼に睨まれて、固くなる私に、彼はくすっと笑った。



「全く・・・。貴方の影響が、姫様に及ばなければいいんですけどね」

「影響ってなんだよーっ!」

「そういうところですよ」



 自覚ないんですね、と陸遜が笑う。



「うーあーー」



 腕の中の郁様が、突然暴れだした。

 何事!?



「ちょ、郁さま、じっとしてくださ」

「郁様」



 陸遜が私の手から、郁様をひょいっと取り上げた。

 あ。



「陸東曹令史!」

が、郁様の頭上で騒ぐから悪いんですよ」



 うるさい。お前のせいじゃん!

 そうじゃなくて、私が心配してるのは



「あー♪」



 ・・・・・あれ?

 私の心配を他所に、郁さまはいたってご機嫌そのもので、陸遜の帽子から出ている布で遊んでいる。

 それを、嬉しそうな顔で見る陸遜。

 若い父親のようだ。



「・・・・伯言、郁様に随分懐かれてるね」



「陸東曹令史」

「はい。・・・そりゃあ、そうですよ」

「なにが??」



 私の問いに、陸遜は困ったように笑い、再び私に郁様を返した。

 私の腕に収まった郁様の頭を、優しく撫でる。



「子供かわいいよねーv」

「ええ」

「郁ちゃんみたいな子欲しいわーvv」

「・・・ええ。僕も欲しいですね」



 ・・・え!?



「では、僕はまだ仕事があるので」

「あ、うん」

「姫様、御前失礼します」



 そう言うと、郁様に拱手し、彼は去って行った。



「なんなんですかー?郁様ー」

「あーぅ」



 置いてきぼりをを喰らった私は、とりあえず郁ちゃんに話しかけたが、向こうからは無垢な笑顔しか返ってこなかった。




















 まさか、このかわいい赤ん坊が、私の恋敵になろうとは露にも思わなかった。

 陸伯言、孫郁と婚姻。

 ちなみに、郁様は、御年1歳になるかならないか。

 犯罪臭いよっ!!!ちょっとまって!!!