愛っていうのはね。薄い蓮色の花びらよ。










 まったりとご飯を食べているときだった。



「そうだ!!みた!?」

「?なにを??」

「不二先輩を!」

「不二先輩ならいつも見てるよ。嫌ってくらいみてるよ。分けてあげたいくらいみてるよ」

「分けてあげたいくらいって…なにアンタ不二先輩のこと好きじゃなかったの?」

「え?好きに決まってるよ??」



 私が言うと、クラスメイトのサキコは怯んだように言葉を飲み込んだ。



「アンタ…よくあっさり言えるわねぇ」

「は?だって先輩だよ?」

「は?」



 サキコが変な顔をした。んん?私は何か間違ったことを言ったのだろうか?



「サキコは嫌いなの?」

「あー、あたしは、ああ言う王子様顔は好きじゃないの」

「人は顔じゃないよー。いい人だよ?」

「アンタはそう言うでしょうけど…って、話ずれちゃった!昨日不二先輩をみたのよ」



 昨日。

 不二先輩は部活休んでたから私は見てないや。



「うん」



 と頷いて先を促す私。

 サキコはニヤリと私を見て、



「誰と一緒にいたと思う?」

「うーん…彼女?」

「そーね、あれは多分…って!え!?不二先輩って彼女いるの!?」



 サキコの声に、教室にいた不二先輩ファンが振り返った。怖い。



「おー、ノリツッコミ上手くなったね!」



 彼女らに気付かない振りをして、私がパチパチと拍手すると「ありがと」と苦笑いを返された。



「不二先輩に彼女いるって誰から聞いたの?」

「聞いてないし知らないよ。大体ああ言う質問の回答が、彼女と歩いてた、でしょ?だから」

「本当に?」

「本当本当」



 赤べこのように頷く私に、サキコは疑わしげな目線を向ける。



「怪しいわね。大好きな先輩が女の人と歩いてたのに、「彼女?」とは、さてはアンタ不二先輩と付き合ってるわね!」

「ハッハッハ〜ばれだか」

「うっそ!マジ!」

「な分けないでしょ?尊敬する先輩だから、彼女の一人や二人いてもおかしくないと思って、言っただけだよ」



 ケラケラと弁解しながら、視線の端で不二先輩ファンの子たちがゾロゾロと教室を出ていくのを捉えた。

 げ。

 思わず顔が引きつった。

 マジィ。やべえ。調子乗りすぎた。



「大体、「不二先輩が誰と歩いていたでしょう」なんて質問だったじゃん!女性なんて情報一言もなかったでしょうが!ほら、誰と一緒に歩いていたの!」



 不二先輩ファンが全員いなくなる前に答えなさい!早く!お願い!

 ああああ、私もあんな冗談言うんじゃなかったー!この学校の女子は冗談通じないことが、階段から落とされそうになってわかったのにー!



「またまた〜!ムキになるところがあやし」

「…サーキーコー…お願いだから、教室でテニス部絡みの冗談は本当にやめて…サキコ声でかいし…私多分殺される…」



 前に一度、菊丸先輩絡みで、階段から落とされそうになったことがある。

 同じテニス部の小鷹ちゃんも、海童先輩絡みで嫌な目にあったと聞いた。

 私の囁きに、サキコははっ!と気づきあたりを見回してほっと一息。



「大丈夫。不二親衛隊はいないみたいだから」

「みんな出ていったあとだよ!ぎゃー!!」



 弁解追いつかず!

 私が頭を抱えて苦悩する前で、ごめーんとサキコが私を拝んだ。まだ死んでない。



「で、本当のところどうなの?」

「何が?」

「付き合ってるかどうか」

「付き合ってるわけないじゃん」

「じゃあなんで落ち着いてんのよ」

「?サキコ、アンタさ、私が男と歩いてたら取り乱す?」

「乱す」

「あ、そう」



 それはあり得ないからでしょう?

 しゃあしゃあと「だって珍しいし」とか言ってるし。



「アンタ不二先輩は好きなんだよね?」

「うん好き」

「菊丸先輩は?」

「うん好き」

「じゃあ手塚先輩」

「うん好き」

「大石先輩は?」

「うん好き」

「…河村先輩」

「うん好き」

「お前は首振り人形か!日だまりの民か!」

「ぎゃー!DV反対!バイオレンス反対!」



 ロープロープ!と言いながら首を絞めるサキコの腕を叩く。

 ふと、サキコの腕が緩んで、



「…アンタはさ、そういう意味だけじゃなく不二先輩のことが好きなんだよ」



 耳元で、そう囁いてきた。














 そうじゃないよ、サキコ。

 そうじゃないよ…。

 たとえそうだとしても、不二先輩に彼女がいたって驚かないよ。

 幸せならいいや、ってきっと思うよ。













 それからが面白いことの始まりで。

 まず革靴が消えた。(高いのに!)

 次にお弁当箱がなくなった。(お母さんになんて言おう!)

 次に机に落書きされた。(なにこのセンスのなさ!)

 四限終わったあとにトイレ行っただけで、よくもまあ素早いと感心してしまった。



 五限は美術で、風景画の写生だったので、私は上履きのままサキコを連れて焼却炉に回った。

 前回教科書を取られた時、焼却炉にあったからもしや、と思って。


 焼却炉はグラウンドの近くにある。

 グラウンドでは、どこかのクラスが体育の授業をしている。陸上のようだ。


 グラウンドを見ながら焼却炉を物色していると、黒いビニール袋を発見!

 破いてみると、私の私物!



「あったあった!よかった!前回と一緒!」

「ああ言う子たちは考えることは一緒なのかねぇ」



 喜んで袋を引っ張り出す私と、おばあちゃんのようにしみじみと言うサキコ。



「そんな乙女回路を調べるような真似はしないよ。時間の無駄」

「まあ、複雑そだ出しね…って、あれ、不二先輩じゃない?3-6だしそうだよ、ほら」

「へ?」



 サキコの声にそちらを向くと、あちーあちーと友達と談笑しながら体操着の袖で汗を拭う不二先輩がいた。



「不二先輩ー!」



 サキコが不二先輩をよんだ。

 うわ、バカ!お前今の状況考えろ!

 不二先輩がサキコの声に気づいたかどうかは知らないが、私は窓が開いた音に反応し、思わずサキコを突き飛ばした。

 瞬間、



ザバー!



 降り注ぐ水。

 お見事。いい感じにびしょぬれですよ。



だいじょう」

ゴン!



 オマケにバケツまで降ってきた。

 もろ直撃。

 ドリフかよ。



!」



 サキコの声にこちらを振り向いたんだろう。不二先輩がぎょっとしてこちらに駆けてきた。

 それを見ながら、私は濡れた髪をかきあげた。


 途端に地面がふにゃりとした。



「サキコ、女の子ってかわいいね」

「…アンタ、ここまでされてよく」

「アドレナリンと脳内麻薬で起こす反応を、信じてるってかわいいね」

?」



 自分がなにを口走ったのかわからないまま、視界がブラックアウトした。
















 あの後私を不二先輩が保健室に運んでくれたようで、気づいたらベッドの上で寝ていた。頭がズキズキした。

 不二先輩だてに鍛えてるわけじゃないんだなぁ。私運べたなんてすごい。

 今日は部活を休めと手塚部長から命令がきた。

 しょうがないので、桜乃ちゃんがラケット類を持ってきてくれるらしいのでそれを待っていた。

 時計をぼんやり視る。

 あー…そろそろ部活終わるんだー…私結構寝てたんだなー…。



?起きてる?」

「!不二先輩!?」



 カーテンを開けると、不二先輩がヒラヒラと手を振っていた。

 ユニフォーム姿。まだ部活中?



「大事なさそうでよかった」

「あんなので大事あったら、先輩たちのボールにあっただけで死んじゃいますよ」

「クス…、大げさだな」

「で、どうしたんですか?部活抜け出してきたんじゃないんですか?」

「あれ?どうしてわかったの?」

「ユニフォーム着っぱなしじゃないですか。わかりますよ〜」



 それもそうだね、と言って先輩は笑った。



「実はね、に聞きたいことがあってね」

「はい?」

さ、好きな人とかいる?」






 …………………。






「いっぱいいますよ」



 私の回答に不二先輩は一瞬きょとんとしてから、クスクス笑いだした。



「面白いね、は」

「恐れ入ります」

「実は僕のクラスの赤城なんだけど、のことが好きって言っててさ」

「はい…………はぃい??」



 なんですと??



「付き合ってみない??」



 不二先輩が変わらない笑顔で、そう言ってきた。













・おわり・



あとがき

 不二先輩最低だー。

 多分、さんをいじめた人は、血祭りに上げられてますよ。不二先輩の手によって。

 書いた後で知ったのですが、菊丸と同じクラスでしたね不二。


不二「は大事な後輩だからね。容赦はしないよ」