終わるまでここで君を見ていてもいいですか。










 テニス部のマネージャーはいつだって忙しい。洗濯したり、記録したり、タオルを配ったり、大変だ。



 初めのうちだからなのか、それとも私が女子だからなのか、グラウンド5周(一周が200メートルだから、1キロ)。

 腕立て、腹筋、背筋、×30を20セット。

 素振りを100回。

 で私の準備体操が終わる。


 おわったら少し時間がある。


 なにせ男子のメニューは倍あるのだし。


 だから私は余った時間を縫って、マネージャーの手伝いをこそこそやっていた。

 こそこそ、と言うのは手塚部長にバレたらちょっと怖いことになりそうだ、と言う臆病精神が働く為である。

 最悪、マネージャーにもお咎めがいくかもしれないし。

 今日も今日とて休憩時間と、部活が終わったあとを手伝った。

 そして、バイバーイとマネージャーと別れてからが、私の時間である。


 この時間なら、周りに誰もいないのでのびのびと練習が出来る。

 醜態をみんなにさらすのは、どう考えても恥なので、こっそりと練習するのが個人的に楽しいのだ。


 わあ、自分寂しい人〜。


 ジャージでの登下校は、基本的に禁じられているが、私はこっそりとそのまま帰宅している。

 なぜなら、自宅付近で見つけた河川敷でこっそりと練習するためだ。

 周りに誰もいない(学校が閉まる時間な)ので、お咎めも受けずにチャリンコで向かうことができる。やったね!


 チャリンコで猛ダッシュして河川敷に向かうと、まず男子と同じメニューをやる。

 キロはアバウトで、一キロが約4分だから約16分走れば4キロになるって感じで。


 一通りやれば、残念なことに今の時間だと陽が完全に落ちてしまう。

 街灯がない河川敷では、壁うちができない。

 球を無くしていいほど持っていないからだ。

 そんな金があるなら、最新モデルのラケットを買いたい。


 また今日も準備運動だけで終わるのかー…と沈む夕日を見ながら河川敷まで4キロの行程を走り終えて戻ってきた。

 やっぱり4キロはなかなかしんどい。

 タオルを取りに自転車の方に向かうと……あれ?

 自転車に誰か座っている。


 この前、自転車泥棒が座っていて、ボコボコにしてやろうかと思いながら、丁重に口先だけでお帰りを願ったばかりだった。

 またかー、とうんざりしながら近寄ると、それが誰だかわかった。

 わかった瞬間私は隠れた。



 不二先輩だった。



 隠れる私も意味不明だが、座ってる不二先輩も意味不明だった。

 あ、こっそりと練習するために私はきたのだから、私は隠れていいのか。

 河川敷には隠れる場所がないので、上の道路にあるポストの陰から様子を伺った。

 はっきり言って怪しすぎる私。この道がどっかの犬のお散歩コースなら、ちょっと怪しい感じなってるポストに隠れる怪しい女。


 時間を潰しているのか、誰かを待っているのか、チラチラと時計を見ながら、私の自転車に座っている。


 えー。本当にどうしよ。意味わかんないよ先輩〜邪魔だよ先輩〜。


 しばらく見守っていると、諦めたようにため息を吐き、鞄から出したノートの端を破いて何かを書き出した。

 終わったそれを、私の自転車の籠の中に入れて、不二先輩は去っていった。


 よかった、こっち来なかった〜…。


 ほっと安堵しつつ、見えなくなるまで見送ってから、私は河川敷に降りていった。


 自転車に入ってる紙を拾い上げて読む。

 私宛じゃないかもしれないけど、どっちにしろ読まないとわからない。






 羆落としをマスターしたいなら教えるから。
 壁と対戦しても顔に返ってくるだけだよ。
 それと女の子が夜遅くまでこんなとこで練習するのは感心しないね。

 不二』




 壁打ちで羆落としを練習しようとしたのは、この場所を見つけて2日後。

 決まった!と思った瞬間に、ボールが顔面に跳ね返ってきて止めた。


 今日でそれから一週間はたってる。

 河川敷に着いて壁打ちを初めにちょっとだけやる。

 最後の締めは羆落としで、顔面に食らって、いざ持久走!と言う進行予定である。



「え!?」



 不二先輩一体いつからどこから見てたんですか!?怖いですよ!?














 次の日から練習メニューが私だけいつもの三倍になっていたのは予想ができたことで(四倍かと思ってたけど)マネージャーの手伝いは、部活後しかできなくなった。

 流石に15周走ったら休みたいです。


 ごめん、私も人の子。



 不二先輩の有り難い申し出は、ありがたく受け取ることにした。

 ジャンピング土下座でありがたさをアピールすると、不二先輩と菊丸先輩と桃城先輩が笑った。「アクロバティック〜」とか言って笑ってた。











 でも本当にいつ不二先輩に見られてたのかがわからなく、顔から火が出るほど恥ずかしかったのだが、

 だったら自転車泥棒との対決の際力をかしてくれてもいいじゃないですかケチー、と思わないでもなかったが、

 それはオブラードに包んで飲み込んだ。













・おわり・



あとがき

 不二先輩が、優しくて不気味ですね。

 不気味と言うかちょっと変態ですよね。これ。


不二「は元気だね。でも、無理しすぎないでね」