部室に行くと、不二先輩が中を確認し、それから私を手招きした。大人しくそれに従う。
さすが運動部男子の部室!と言う臭いがするが、私には不快ではない程度だったので特になにも言わずに、椅子に座った。
英二先輩と不二先輩が、それぞれのロッカーでごそごそしている。
「さん」
「あ、はい」
「靴と靴下脱いで」
「え!?」
「足。テーピングした?してないよね」
「え!?」
どこまで見てたんですか今朝は!?
「すみません!」
「よく謝る子だね〜。不二、どうしたの?」
「うん、ちょっとね。歩き辛そうだから。さ、足出して」
「いえ!だ、大丈夫です!自分でできます!」
女が男にするのは、男のロマンかもしれないが、逆は恥ずかしい!しかも私じゃ見苦しい!
オーバーアクションで完全拒否する私に、不二先輩は「そう?」と言ってテープを投げてくれた。
私はそれを受け取ると、鞄とラケットを持ってスタコラ逃げ出した。
「着替えの邪魔しちゃいそうなので出ていきます!テープ明日にでも返します!三倍で!すみません!」
言うこと言って、何か言われる前に扉をバタンと閉めて女子更衣室に向かって走った。
更衣室に付いてから、我に返って痛みにのたうち回りそうになったことは内緒だ。
「お邪魔します…」
こそこそと女子部室に入ると、中でリョーマ様がどーのと騒いでいる女の子と、先生らしきごつい…失礼、体格の良いおばさん…訂正、体育会系の女性教諭がいた。
「おはようございます」
朝でもないのにおはようとはこれいかに?と思わないでもないが、引っ越すまで居たテニススクールでは、一番最初の挨拶が「おはようございます」だったので、つい癖で言ってしまった。
が、それは正しかったようで、女性教諭はにこっと笑い、挨拶を帰してくれた。
「入部希望者かい?」
「あ、はい」
「ラケット持ってきたのか、偉いね。テニスはしてたのかい?」
「はい、大阪の方のテニススクールに通ってました。」
「大阪!随分遠いところからきたもんだ。まさか、一人暮らしかい?」
「いえ、父の転勤に合わせて引っ越してきたので」
「そうかい。そうだろうね。中学生の一人暮らしなんて無謀過ぎる。
じゃあジャージに着替えてくれるかい?入部するしないは、その後でいいから」
「はぁ」
テニス以外に入部するつもりなんてないのになぁ…、と思いつつ生返事。
軽率に考えるなってことなのかな?まあそれは正しいよね。合わなかったらテニススクールを探してもいいんだし。
私はすごすごと下がり、部屋の隅の方で着替え始めた。
バサバサ脱いで着替えたので、きゃいきゃい話て居た女の子たちがびっくりしたようだ。すみません、がさつで。
「あの」
か細い声がした。
今部室には私を含めて4人しかおらず、うち一人は先生、つまり彼女は私に話掛けているのだ。
「はい」
私は今朝教室で出来なかったことを実行するために、愛想を振りまいた。とびきりのスマイルをくれてやる。
私の笑顔に彼女はほっとしたように笑った。
よし!掴みはオッケー!
「一年生ですか?」
「はい、そうです」
「よかったぁ。私一年の桜乃と言います」
「私は朋香。ともちゃんって呼んでいいわよ」
「は、はぁ」
明るく陽気で強い声が割って入った。さっきリョーマ様がー、とか言ってた方だ。
「一年のです。よろしくお願いします」
ペコン、と頭を下げると、二人もよろしくといいながら頭を下げた気配がした。
顔を三人同時に上げて、思わずクスクス笑い合う。
「あ、そうだ。先に言っておくけど!」
ともちゃんが私に指を突き付けた。
「リョーマ様は渡さないからね!」
「リョーマ様?越前リョーマ様?」
おっと、つい様をつけてしまった。
私が知っていたことが意外だったようで、二人とも小さく声をあげた。
「なんでリョーマ様知ってるの!はっ!まさか隠れファンとか!」
「ち、違う違う!クラスが一緒で、ラケット持ってたから今朝絡まれただけで」
「絡まれた!」
「あー、うー、あーそーだ、私テーピングしなくちゃー」
ややこしい事態になりそうなので、今朝つながりで思い出したけがの手当てをすることにした。
見て気持ちの良いものではないので、見ないように勧めるが、ともちゃんは引かない感じである。やれやれ。
ちょっとごめんなさいよー、と言いながら靴下をゆっくり脱ぐ。
凝固した血液と組織液が、破れかかった皮膚と靴下をくっつけて居るため、結構痛い。
傷の様子にぎょっとして、二人は黙った。このくらいの皮むけなんて今までだって何度もしているから、私的にはどってことないんだけど、なったことない人はぎょっとするだろうなぁ。
大丈夫大丈夫ー、と手を振りながら、先に行ってて、と頼んでみる。
出ていった二人を見送って、私はえいやっとテープで固定を始めた。
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