さまよえるライオン。












 それは、合宿所の部屋の隅にあった。

 フツーのゴム製の黄色いボールに、白いペンで模様が付けられていて、どこからどう見てもお手製の可愛らしいテニスボールだった。

 テニスが好きな小さい子でもきたのかな?

 そんな風に思い、後で管理人さんに届けようと、カバンにひょいと入れて置いたのだった。








「集合!」



 手塚部長の厳しい声が響く。

 今日から青学は夏合宿!

 今年の夏合宿は青学だけでなく、六角中も一緒なんだとか。

 咲乃ちゃんと小鷹ちゃんと一緒に部長の声の元、テニスコートに急いだ。

 私は友達が少ないので、しょっちゅう咲乃ちゃんと小鷹ちゃんの二人と一緒にいるせいか違和感がないのだけれど、こっちのテニスコートにいる女子は少ない。


 なんでも夏合宿はいつもの練習より数段ハードなので、男子と一緒に行動するのはミクスド候補の女子だけなんだそうだ。(この時私は自分が候補だと言うことを初めて知った。だって、試合ではシングルスも男女ダブルスも経験してきたからさぁ!)


 コートには六角中の皆さんが整列していらっしゃった。

 正直試合の時は、自分のことでいっぱいいっぱいだったので、六角中のことはあんまり詳しくない。

 不二先輩が楽しそうにしてて怖いなぁと思ったくらいだ。



「今日から合宿を開始する。青春学園、六角中学校共に切磋琢磨し、有意義な合宿になるよう努めて欲しい」

「「「はい!」」」

「知っている者もいるかも知れないが、私は青春学園男子テニス部部長を務めている三年の手塚国光だ。今後ともよろしく頼む」



 こういう説明を聞く度に、手塚部長って中学生だったんだ!と再確認する。三年って言われなきゃOBか顧問の先生だと思うもんなぁ…。

 私も三年になったら、あんな先輩になれるのかしら。

 部長の挨拶が終わると、横にいた六角中の人が一歩前に出た。多分六角中の部長さんなんだろうけど、手塚部長の横にいるせいか大分若く見える。



「えー、葵剣太郎です。六角中一年、男子テニス部部長を不祥ながら務めさせて頂いています。よろしくお願いします」



 いちね…っ!!

 同い年!?



「さ、咲乃ちゃん、向こうのぶちょさん同い年だよ」

「う、うん、すごいよね」



 他の人はあんまり驚いてない感じがした。

 一年で部長になるんだから、すごい人なんだろうな、有名なんだろうな。

 咲乃ちゃんはテニス初心者、私は関東に疎いよそ者なので、驚いてしまってるんだろう。



「練習は、しおりにあったように、朝、昼、夕の三回にわけて行う。夕は総当たりの練習試合、その他はグループに分かれて行動してもらう」



 手塚部長の説明が始まったので、私と咲乃ちゃんは慌てて口を閉じた。

 どうやらくじ引きで決めるらしい。くじ引き好きだな…。考えることはどこのテニス部も同じだと言うことだろうか。

 女子は女子で引くようで、三年の女子の先輩の元に集まってくじを引く。


 一番。


 なんかデジャヴを感じる…。

 一番の場所に集まると、不二先輩と桃城先輩と私、後は六角中のお三方が居た。

 さらにデジャヴを感じる…。

 原因は当たり前のようにいる不二先輩なんだろうとわかっているのだが…なんかそう言うと私が不二先輩のことを嫌っているようなので、思っても口には絶対にしない。



「よぅ、お嬢。一緒のチームか」

「桃ちゃん先輩と不二先輩と私ってすごく異色な気がします」

「なんだあ?不満なのかよ」

「いいえ!全然!これっぽっちも!!」



 力いっぱい否定すると、桃ちゃん先輩に頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。

 ぐは酷い!とかやっていると、六角中の人が不二先輩と仲良く話しているのが目に入った。

 誰なんだろう?

 私の視線に気づいた不二先輩が、くすっと笑って私に手招きした。

 をを?



「はい、なんでしょう」

「じっとこっち見てどうしたの?…なんて意地悪言わないよ。彼は佐伯虎次郎。六角中三年だよ」

「あ、よろしくお願いします!青学一年のです!」

「よろしく。君が不二がよく言っていた有望な一年生だね」



え!?



「そうだよ、将来青学を支えるルーキーさ」

「ええええ!?なに言ってるんですか不二先輩!?」

「あれ、気に入らなかった?これでも誉めてるつもりなんだけど…」



 いや、誉めてくださっているのはわかりますって!

 オロオロする私を見て、佐伯先輩が楽しそうに笑った。



「あはは、不二は随分気に入ってるんだな」

「まあね」



 楽しそうに答える不二先輩。

 今のやりとりを見て、気に入ってるという佐伯先輩に乾杯。

 まあ、遊ばれてるんだから嫌われちゃあいないんだろうけど・・・・・。


 その後、六角中二年女の先輩と一年の男を紹介してもらった。

 私たちの班は、これから素振りをメインに練習するそうだ。

 コートは数が限られているので順番。一班なのに、コートの順番が最後って、なんか変な感じだ。


 とにかく素振りなので、ラケットを取りに鞄まで戻る。

 鞄を開けてラケットを取り出すと、ラケットに引っかかったのかボールも一緒に飛び出してしまった。

 あの部屋で拾ったビニールゴム製のボール。



「おっと…」



 慌てて手を伸ばしたが、スカしてしまった。おのれ!

 ボールはポンポン跳ねて行ってしまった。



「ちょっ…待って!」



 私は慌ててボールを追いかけた。














あとがき

 ボールは水先案内人変わり。

 と言うか、合宿って何やってるんですかね。ゲームの知識だけじゃ、うまくかけないなぁ・・・。

 とりあえず、殺人養成所みたいな訓練するんだろうなぁと・・・。


不二「がどれだけ強くなれるか、楽しみだなぁ」