髪型良し!
カラー良し!
スカート良し!
靴下良し!
顔にクマなし!
今日はべっぴんさん☆
「よし!」
私は洗面所の鏡の前で、くるりと一回転してみた。
今日から私は中学生。
青春学園中等部に編入するのだ。
なんでわざわざ編入するかと言えば、大人の事情と言うやつで。
核家族で一戸建ても手に入れてない私ら一家は、父親の転勤に合わせて引っ越してきたからだ。
環境も学校も一新し、昨日は興奮して少し寝付けなかった。
何事も初対面が肝心だし。
なにより、初等部から居た子たちの輪に入って行けるか少し心配でもあったし。
「いってきます!」
台所で洗い物をしている母に声を掛け、私は靴を履いて玄関のドアを開けた。
父親は私が寝ている間に出勤している。ご苦労様である。
快晴。新たな生活の門出を祝すような天気に思わずにやり。
足取り軽く、三階分の階段を掛け降り、駐輪場から赤いシックなママチャリを押し出した。
父親が私を優先してくれた為、学校まで自転車で10分あるかないかの距離に私のマンションがある。
編入試験に落ちてたらどうする気だったのだろう、と今更ながらに思いながら、自転車を漕ぎ出した。
籠には学生鞄。
背中には…迷ったあげくテニスラケットを背負った。
青春学園はテニスが強いらしい。女子はさほどでもないらしいが、男子がすごいんだと。
そんな中にテニスラケットを持って行くのは、如何にも自信満々のナルシストっぽくて嫌だったのだが。
もしかしたら逆に持って行かないと不評かもしれない、と言う臆病な発想により結局持っていくことに決めた。
周りの様子を見て、部活に持っていくようだったら持っていくし、微妙だったら教室に置いていこう。うん。
ああ。弱気な自分、いと情けなし。
すべり降りる坂。
流れる景色。
綺麗な蒼天、輝く若葉、舞い散る桜。
いざ登校してみると、期待だけで胸がうずうずしてきた。
今日から私は中学生のお姉さんなんだ!
その事実が意外とうれしかった。
学園近くから駐輪場、げた箱、教室、とチラチラ私を見る人が居た。
前日、学園全体から白い目で見られる登校風景をシュミレートしていたお陰で「想像していたより少ない」と思い切ることができた。
何事も想像してみることが大切だね☆
教室に入ると、まだ時間が早いせいかまばらに人が居た。
その中で目に付いたのが、机に掛けてあるラケットカバーだった。
…なんだ、私のほかにもラケット持ってきた人いるんじゃん。
少し残念な気分を味わいながら、私は自分の席を探した。
探しいる途中、ラケットの席の少年と目があったが、ふっと鼻で嘲笑された。
ちょっとまて少年!私が君に何をした!
そんなツッコミをしながら、見つけた席に大人しく腰を下ろした。
時計を見る。まだ30分くらいある。
…早く来すぎた。そりゃ白い目も少ない筈だ。
周りにいる子は初等部からいた仲間連中なのだろう。
話に夢中で、私と言う存在には全く興味がないようだった。
…どうしよう。
「ねえ」
男の子声が、側で聞こえた。
横を向くと、先程の少年が居た。
背は私より低くく、なりたて中学生の初々しさが身なりを包んでいた。私もそうなんだろうきっと。
ただ、態度は大人顔負けの悠然さがあった。
「ええと…私、ですか」
初対面の為思わず敬語になってしまう。
彼は私の質問に頷いた。
「ラケット持ってきたんだ」
「あ、はい」
「テニス、できるの」
「はぁ、人並みには」
「軟式?硬式?」
「…どっちも、一応」
小学校の時は軟式を、父親と遊ぶときは硬式をやっていた。
中学は軟式か硬式かなんて、よく知らない。
「打たない?」
「は?」
「暇なんだろ」
「はあ」
「硬式できるんだろ」
「はあ」
「いこう」
なんだかよくわからないが、なし崩しに流れに流され、私はラケットを持って外に出された。
先生に初日から目を付けられたらどうしよう。
自分の今の状況より、今後を気にするあたり、私はやっぱり優柔不断の軟弱者だなぁ。
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