次の日も同じように過ぎて(ただし幸村くんはこなかったけど)、柳くんにデータを渡し、たわいない話をしてから家に帰ると、道すがら携帯が鳴った。
ポケットから取り出すと、サブ画面に『着信 バカヤ』の文字がバイブレーションに合わせて点滅していた。赤也くん?
「はい、もしもし」
「もしもしマネージャー?」
「だよ。どうしたの」
「マネージャーさぁ、夏休みの宿題終わってたりする?」
猫なで声に、赤也くんの電話の真意が分かった。いつものことだ。
こういう時だけ、私を必要としてくれるんだから。全く。
「明日渡そうか?」
「…まだ何も言ってないんだけど」
「違った?ごめん。
でさ、持って行ってもいいけど、会場まで持って行ったら真田副部長あたりに殴られるんじゃない?」
「アンタ人の話聞く気ないだろ…まあそうなんだけどよ…明日は休みなんだよね準備」
「ああそうなんだ。部活の方も休みだよ」
「マジ?じゃあ明日図書館で写すのも手伝ってくれよ」
「は?図書館?別にいいけど」
「引っかかったのは図書館の方かよ…」
「まあ予想はしてたし。どれくらい残ってるの?」
「あー…さんぶんのいちもおわ」
「よし、明日8時の開館と共に図書館に入るよ」
「………………」
「なによ。何も終わってないんでしょ」
「ちょっとはやった!」
「マジ?偉いじゃん!じゃ、明日8時ね!」
「…ウィーッス」
「…しかし、まだ31日じゃないのにどういう風の吹き回し?運営委員のせい?」
「な!か、関係ねぇじゃん!じゃな!」
プッ、ツー、ツー、ツー…
図星かい青少年。
しっかし、運営委員モテモテだな。幸村くんも誉めてたしなぁ。
普通、部員にモテモテってマネージャーの特権じゃないのか?
「…………」
右手に視線を下ろす。
ある日、突然動かなくなった右手。
手術とリハビリのおかげで日常生活に支障はきたさないけど、テニスプレイヤーの夢は潰えた。
それでもテニスに関わりたくて、柳くんと言うアイテムを使って無理矢理なったマネージャー。
…だからか、余り頼りにされていないマネージャー。
しっかりした子なんだろうな…運営委員の子。
確か二年生なんだっけ?この短期間でレギュラー陣のハートをガッチリ掴むとは!
明日、赤也くんに詳細を聞くか。
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