は友人だ。
それ以上でも以下でもない。
兄妹のような、そんなこともない。
友人だ。
昔からよく知っている友人だ。
ずっと、そう思っていた。
仁王に告白した、と聞くまでは。
ひどく動揺した。
頭が回転しない。苛立ちばかりが喉の奥からせり上がってきた。
こんなにイライラしたのは、久しぶりだった。
そして焦っていた証拠に、彼女を探しにぐるぐると会場内を回ってしまった。電話した方が早いと気づくまで、かなり時間がかかった。
これだけ自分が愚かだと痛感するのは、に関しては二度目だ。
一度目は、が利き腕を肩から肘に掛けて手術をすることになり、見舞いに病室に行った時だ。
白いベッドの上で、少し痩せた彼女は、死んでしまいそうなほど暗い目をしていた。
手術の成功率は半々、成功しても以前のようにテニスはできない。そう言われたらしい。
俺は、どうすることもできず、一生秘匿していようと決めていたことを何故か彼女に打ち明けてしまった。
そのときは、きっと、俺は弦一郎のことだけを愛していたに違いなかったが。
は、じっと俺を見て、悲しいね、と呟いて、少し泣いた。
電話しての声を聞いて。
変わらぬ様子に安堵した。
電話を切った瞬間、安堵した理由に気づいて、しかし解りたくなくて頭を振る。
それでも頭から抜けない。
ああ。
俺は、なんて臆病者なんだ。
弦一郎を愛していて、に恋している。
だが。
今のこの空気を壊す気にはなれない。
だから、俺はお前たちの良き友人で在り続ける努力をしよう。
いつかそう遠くない未来、きっと、友人が一番大切でなくなるその時がお前たちにはくるだろう。
その時に、友人として、側に在りたい。
そして、俺かお前が死ぬときに「ずっと好きだったが、お前なしでも生きていけた」と胸を張りたい。
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